うなぎと未亡人

newmoonakiko2007-04-22

命日の翌日は私のお誕生日である。昨夜は、法事というより私のお誕生会だった。生きている方が勝ちってことかしら。しかし、いまさら、お誕生日だからどうということはない。
母がつれあいを亡くしたのは、今の私と同い年だ。母のつれあいとは、私の父であるわけだが。その母は、およそ20年間、ひとりで生きた。母の20年間は、私にとっては、激動の20年間で、母の心境などに思い至る暇がなかった。だんだん、姿形も母に似て、年も近づいてみると、母の孤独というものが近しいものになってくる。
いつも、きっちりしていた母で娘に悩みを打ち明ける人ではなかったのだが、1回だけ、へんてこりんな悩みを打ち明けられて大笑いしたことがある。
それは、近所の既婚の男性が、勿論知り合いなのだけれど、その男性が、うなぎを買ってきてくれるというのである。家で食べるのでついでに買い求めてきたというのであろう。母は、それが、迷惑なのだという。貰っていいものか、悪いのか、どう断るか分からないというのである。「頂いていいんじゃない。食べちゃえば、後に残らないもん」と言った娘。たぶん、母は固辞したのであろう。それ以後、うなぎの話がでたことはない。
固辞されたうなぎをどう妻に説明しただろう。3串なら安かったとか。想像するとおおいに笑える。しかし、よくよく考えてみるとだ、母と同じ立場になって数年たつ私。夕飯時にうなぎを届けてくれる男性なんていない。もしも、もしも、奇特な方がいて、いや余っちゃったうなぎが回ってきたら、Vサインで頂くのだが。
母は、明治の最後の生まれ。その男性も同い年かそれ以前の明治生まれであろう。玄関先に座る着物姿の母が浮かび上がってくる。少しうれしくもあり、鬱陶しくもある女心。未亡人の矜持も。

写真は、息子たちがくれたお誕生日プレゼント。バラの花とコーヒーカップ。髪留めとたび靴下。それぞれの彼女の趣味なのよね。