[食]落花生

生ごみを堆肥にしてから、もう20年近くなる。夫の知人が密封バケツとEMボカシで、生ごみを土に戻す実験せよという。引き受けたのは夫だから、やればという感じだったが、結構おもしろそうだったので、実験に加わった。生ごみを密封バケツに入れて、ボカシを振り掛けるという単純作業だったが、これを土に還すのが、問題だった。十分な土がないので、市民農園を借りた。発酵させた生ごみを黒い袋に入れて、電車に乗り、栢山という駅まで運んだ。

畑を耕すのは、もっぱら夫の役割で、きゅうりやトマトやオクラや、ジャガイモやサツマイモを植えた。化学肥料も農薬の使わなかったし、考えてみたら、どうやって使うかもわからなかった。生ごみ堆肥だけをせっせと畑に入れて、稔りだけを稔りとして食べた。ただ、ただおいしかった。

その中で、一番印象深いのが、落花生だ。いつのまにか、葉が茂り、黄色い、不可思議な花が咲き、そして、、土の中に実ができる。花が落ちて土に稔る。文字通り「落花生」。熊野のおっちゃん、麻野吉男さんが、坂口安吾の「堕落論」より「落花論」と言っている。「私という花が堕落やのうて只落ちる。土に落ち着地して等身大の己と向き合う。オレは土をキタナイ泥と見なかった。生命の詰まった不思議の国と見た。土の中には、地獄やのうて極楽がある。それがオレにとっての百姓の原点や、我輩はナンキン豆である」。最後は、おっちゃんらしく、はちゃめちゃになるのだが、実におもろい。  

白鳥省吾という農民詩人も、落花生讃を書いている。

いつ知らず 葉は繁り 花咲きて 人知れず 土に稔りぬ と。

なんくる農園松本さんから届いた落花生。茹で落花生の白さ、柔らかさよ。