[暮らし]根府川

根府川駅JR東海道にある無人駅で、私が小田原の中で一番好きな駅だ。詩人の茨木のり子さんが、終戦翌日、学徒動員先から関西の実家に帰る途中この駅を通り、こんな詩をつくっている。

根府川の海」

 根府川東海道の小駅
 赤いカンナの咲いている駅
 たっぷり栄養のある
 大きな花の向こうに
 いつもまっさおな海がひろがっていた

 中尉との恋の話をきかされながら
 友と二人ここを通ったことがあった

 あふれるような青春を
 リュックにつめこみ
 動員令をポケットに
 ゆられていったこともある

 燃えさかる東京をあとに
 ネーブルの花の白かったふるさとへ
 たどりつくときも
 あなたは在った

 丈高いカンナの花よ
 おだやかな相模の海よ

 沖に光る波のひとひら
 ああそんなかがやきに似た十代の歳月
 風船のように消えた
 無知で純粋、徒労だった歳月
 うしなわれたたった一つの海賊箱

 ほっそりと
 蒼く
 国をだきしめて
 眉をあげていた
 菜ッパ服時代の小さいあたしを
 根府川の海よ
 忘れはしないだろう?

 女の年輪をましながら
 ふたたび私は通過する
 あれから八年
 ひたすらに不敵なこころを育て

 海よ

 あなたのように
 あらぬ方を眺めながらー。

廃校となった片浦中学校の校舎の窓から、この相模の海を眺めることができる。

あらぬ方眺めて小駅春座る

この廃校の片浦中学校で、3月12日から26日まで、「片浦中学校であそぼう」というイベントが開催される。若い芸術家が中心になって、アートの展覧会、映画上映会、音楽ライブ、ガーの会(ハンバーガーを作る会)、ハンモッ句会deピクニックなど、魅力的な企画だ。ゆっくり、茨木のり子さんの詩の一部が掲げられている小駅から、急な坂道を昇り、片浦中学校まで歩いてみたい。根府川駅にカンナの花を咲かせて欲しい。カンナは昭和の花、終戦の花だ。