[本]市民皆農

反骨の人と硬骨の人の往復書簡集。どちらがどの骨とはいえないのだが、反骨と硬骨という骨を読みながら探すことになる。そもそも骨は、きしきしときしんで砕けていくだけだと思うが、人間死して残るのはその骨だけだ。中島正さんは1920年生まれ。陸軍工科学校を卒業して、台湾で終戦を迎える。戦後、郷里である岐阜県下呂市に戻り、小羽数の平飼い養鶏を取り入れた農業を始める。1970年代から、「農業は億万年、大自然の循環と共にあるべきもので、もしこれが循環との係わりをやめて異常突出(大進歩)を遂げると、大自然との間に必ず歪みを生じ、危殆に瀕することとなります。アメリカ大規模農業が大地の荒廃(表土の流失や塩害など)に悩まされているのはこのためであります」と見事に現代農業の矛盾を喝破し、大地に根ざした自給農業の必然性とその技術を広く伝えている。ちなみに中島正著「自然卵養鶏法」は、私の座右の書。別に養鶏をするわけではないが。

かたや、山下惣一さんは、1936年生まれ。佐賀県唐津市の半漁半農の村で農業を営みながら、小説やエッセイを執筆。農民の側からの数々の発言は、物議をかもすも消費者の目を拓かせてきた。反骨と硬骨の差は、終戦のとき、25歳と9歳という違いかもしれない。中島さんの前の山下さんはまだまだ青年のように考え続けている。アジア農民交流センターの年1回の総会の翌朝、中島さんに会ってくると朝ごはんもとらずに東京駅に向かっていった山下さん。(山下さんは、アジア農民交流センターの共同代表)あの中島さんとは、中島正さんだったのか。その日から、3年。鍛え抜かれた農魂のラリー(往復書簡)だ。

たいした物を食べていない身でありながらも、自らの骨を厳しく鍛えあげねばならない。自然と共に生きるのは今も同じ、しかも誰もが昔は農民だった。土を触っているとそのことを思い起こす。