[俳句]哀しみのエネルギー
2003年6月 梅雨三日爪赤々と塗りにけり
2002年2月 寒紅やご破算にして引き直す
2001年10月 酔うもなく地酒の底の秋の暮れ
3句目がNHKの画面に映ったものだ。身もふたもない陰気な句だ。ビール瓶の底でもなく、ワインの瓶の底でもない、単に日本酒でもない、「地酒の底」というだけが獲り得かもしれない。「じざけ」の「じ」「じごく」の「じ」。地酒がその土地に鎮まる魂の酒とまでは言わないが。夫が亡くなって半年、べそべそ泣いてばかりいた私が、ひょっこりと顔をあげ、その哀しみとやらに言葉を与えた瞬間だった。それから、1年1年そのエネルギーは、日常という時間に穏やかに融合していく。2006年6月になって、冴え冴えした寒紅の如き口紅も時には失念してしまう。まして、爪は赤々と塗られてはいない。引き直すエネルギー、塗るエネルギー、みんな哀しみが引き出していた力だと思う。元気になってエネルギーがなくなる。今の私はかなり消耗している。
私がお手伝いしている会社に勤める女性社員はすべて爪を塗っていなかった。爪を研いだり、爪をかんだり、爪を磨いたり、女の爪は物語だけれど。語れというならあるよね、Mさん。いつか聞かせて。