さらば夏よ

     

 今は食に季節限定というメニューは少ない。その例外が冷やし中華である。今年の夏もよく食べた。外食は、冷やし中華か冷やしたぬきそば。中華料理店と蕎麦屋をいったりきたりしていた。いわゆる今流行のラーメン店には冷やし中華はない。梅雨あけ近くになると、「冷やし中華」が食べたくなって、「冷やし中華はありますか」と聞くのであるが、そんな時はまだやっていない。体の方が季節を先取りしてるのか、と思うことたびたびであった。


さて、「冷やし中華」の紙が貼られる頃、夏も絶好調である。冷房の中で食べてもいけるのであるから、暖房の部屋で食べてもおいしいと思う。だが、どこの店でもこのメニューは9月でお終いとなる。スーパーの陳列台からも、冷やし中華は消える。また、来年と思うから夏に恋しくなるのだろうか。しかし、昔はただキュウリとハムと薄焼きたまごの線切りだったのが、年々豪華絢爛になって私を唸らせる。ところで、「紅しょうが」ちゃんと「なると」君はいつから姿を消したのであろうか。


ところで、あまり食べ物にわがままを言わない人であった私の母は、晩年寝込んでしまった時、「カキ氷が食べたい」とせがんで私たちを困らせた。今では、いつでもどこでもどの季節でもカキ氷はスーパーにある。しかし、20年近く前には、真冬にはカキ氷を売っている店などなかった。アイスクリームはあったように記憶しているのであるが、アイスでは満足しないのである。それから、春がきて、夏の始めにようやくカップに入ったカキ氷が出回ってきた。まだ小さかった下の息子が、スプーンですくって母に食べさせていた。一口は、おばあちゃんに二口目は自分の口に入れながら。そんなに好きなら、カキ氷器を買おうと、思った矢先に母は亡くなった。
親子は似ると言う。私も冬に倒れて、「冷やし中華」を出前させろと騒ぐのだろうか。すとんと秋になりました。


写真左は箱根板橋の「品しな」の今年病み付きになった冷やし中華 ヒスイ色の麺は大船駅近くの「千馬」の冷やし中華 本日食べ納めしました。