出版百周年記念「破戒」を観る

newmoonakiko2006-10-15

島崎藤村が小説「破戒」を出版したのが、1906年。はや、1世紀が経過する。京楽座を主宰する中西和久が主人公を演じる舞台が俳優座劇場で行われいる。本日が最終日。友人から、残り1枚をプレゼントされて、久しぶりに六本木まで足を運んだ。評判がよいのか、超満員。平均年齢は、65歳ぐらいかな。若者には、藤村の名はあまり馴染みがないかもしれないが、団塊の世代までは、文学青年のみならず、1度は必ず通った作家であろう。「破戒」は、部落民の差別問題を扱った小説である。人間の平等意識が定着した(観念的には。でも実際はどうだろうか)現代では、ある意味古臭い「破戒」をどうやって舞台化するのだろうか、と興味があった。結論からいって成功ではないか。舞台脇で奏でられるチェロとパーカッションも効果的だったし、照明もわるくない。西川信廣の演出も立体的な構成で不思議な空間を作っていた。監修は五木寛之。丑松の父親役は、声のみで三国連太郎だ。実は、こんなマイナーな演劇に出演してくれる大物俳優はいなくて、この声の役には難航したそうだ。十分に差別意識が働いているぞ。そこに「やってあげよう」と名乗りをあげたのが、三国連太郎だという。パンフレットに三国連太郎が、「差別って日本人の悪いクセ、風景ですね」と言い、中西が「三国さんならではの含蓄のある言葉だ」と書いている。
原作では、丑松はアメリカに旅立つのだが、この舞台では没落武士の娘と結婚して東京で暮らすという、明るい結末になっている。100年の歳月の結論なのだろうか。現代人の心の深層によこたわる差別意識をもう少し浮かび上がらせたら、最高だったろう。しかし、演劇という世界もいいなぁ。