[本]タマネギ畑で涙して

newmoonakiko2007-03-27

1990年、山下惣一さんの著書「タマネギ畑で涙して」は、日本の農民がタイの農民に会いに行く話である。時代は、食のグローバル化が叫ばれ、ことにタイは日本の台所とも言われた頃の話である。農業の危機を訴え、自分の身も厳しい日本の農民が、タイの農民の貧しさに涙する、今読んでも感動的な本である。実は、この本の印税をもとにアジア農民交流センターが設立され、農民同士が互いに知恵を出しあい、新しい暮らしのしくみを生み出していく、本物の交流が続いている。
それから、17年後。山下さんは、がっちりした体格は農民そのものかもしれないが、ほうかむりもしていないし、好々爺という雰囲気。しかし、さすがに目のつけどころは常人ではない。鋭い突っ込みにやはり泣く子も黙る山下惣一さんだと思う。

長年の交流の積み重ねの賜物か、今回の旅は、国賓待遇(そんなもの、しらないが)。山下代表と菅野代表の挨拶の譲り合いは、愉快ではあった。その上、宴会、民族舞踊のご接待。遠来の客をもてなす、心くばりに新参者の私などは、恐縮するばかりだった。到着第1日目のターボ市は、これから生ごみリサイクルを行おうという地域。市長さんは意欲的だ。市主催の晩餐会は、メコン川に近い広場で行われた。そこには、町の人たちも大勢集まっていて、舞台ではいれかわり立ち代り、踊りと歌が披露された。我々のメンバーも踊りに加わり、タイ風の歓迎に洗礼をうけたわけだが、幸いにも私は、ただ食べることに集中することができた。ところが、最後の最後でご指名を受けて、踊らされたのである。それも、見知らぬタイ人男性とふたりっきりで。羞恥に耐えかねて、帰っていったテーブルで私はつぶやいた。「なんで私なのよ」。そしたら、某先生が「年長者を敬うのがタイのしきたりですよ」。ここで、はたと気がついた。なんとこの旅で、女性では私が1番の年長者だったのである。でも、なんで私が一番年上と分かったのよ。まぁ、いいけど。ならばと度胸が据わって、以後それらしく踊りまくったのはいうまでもない。本の中では、どじょうすくいを踊ったという山下さんは、ニタニタ笑うばかりであった。
「タマネギ畑で涙して」を読んで、参加した人には違和感のある旅だったかもしれない。イサーンの農民は、今でも借金は増えこそすれ、減ることはない。出稼ぎも減ることはない。そちらを見ることも大事だが、経済競争に巻き込まれず、しっかりと自分の暮らしをたてて、地域をおこす人たちと交流することも意味があるように思う。タイでは、「足るを知る経済」が国王の下で行われている。足るを知るか、心に刻もう。