柿の実

newmoonakiko2007-10-08

鎌倉の街を歩いていたら、柿の木にぶつかった。庭の囲いの中にではなく、街路樹に混ざって、実をつけている。そぞろ歩きの人間がもぐのか、それとも、鳥が食べるのか。ともかく、秋だ。

柿むく手母のごとくに柿をむく   西東三鬼

柿食ふや遠くかなしき母の顔    石田波郷

柿と母親とどう結びつくのか、私にはあまりわからいのだが、たぶん、昔は、どの家にも、柿の木があって、その柿は家を守る母親のような存在だったのかもしれない。秋になると、父が柿の実を落とし、母がそれをむく。柿だけではないが、果物をむく手というのは、母の手そのものだった。
台所で玉ねぎを切る母の手、魚や肉をさばく母の手などは、思い出さない。食事を終えて、ひと段落したところで、母が食卓に包丁を持ってきて、柿をむく。子どもたちは、そのしぐさを目の端に入れて、おしゃべりをする。今でも、それは鮮やかに思い起こすことができる。くるくるとむいていく白い手。母のごとくに柿をむく とは、まさにそのことなのだろう。
今、皮をむく果実は不人気だという。母の手喪失なのだろうか。少し、さみしい。