[食]有機農業・ホスピス

下曽我にある曽我みどり館で開かれた小田原有機の里協議会総会に出席した。総会だから粛々と議事がすすむのだが、もっと議論をしてもいいんじゃないと思う。28日に農水省有機農業についての全国会議があるが、協議会からは市の職員が出席するという。私は取材しにいくよといったら、そうなんスか、協議会のメンバーにメールしたらみんな忙しいっだから僕ひとりで行きますって。彼の楽天的なキャラは賞賛に値するが、現状に満足せず、忙しい農家の代わりに一緒に勉強しましょ。

その後、下曽我から御殿場へ。あこがれの御殿場線なのだが、目的がホスピスにいる友人のお見舞いなので、心は晴れない。御殿場駅の変わりようにびっくり。一緒に行く友人を待つ間に遅いお昼を食べる。駅構内の「じゃんじゃん亭」のつけ麺850円。つけ麺の具が、穴子ととろろいも、ねぎ。それにわさびで食べる。国産小麦だけでつくった麺が売りで、外国産のポストハーベスト問題までしっかり言及している。御殿場駅でね、こんなラーメンに出会えるとはね。

さて、ホスピスは、クリスマスのイルミネーションで一躍全国区となった時之栖の真向かいにある。昔はらい病専門病院だったが、現在はキリスト教会が運営する外来診療を併設するホスピス神山復生病院となっている。どの部屋からも庭が見え、その庭には、ナスやキュウリが育っている。清潔で明るく開放的で、しかも窓から見上げればいつも富士山がある。

しかし、一歩部屋に入った時、友人の変貌振りに息をのんだ。ここはホスピスなのだ。なのに、にこやかな笑顔の友人を期待していたのだ。現実は、厳しい。胃がんが発見されたのが、3月の末。放射線治療抗がん剤治療を強く医者に勧められたが、代替医療を選択して、夫婦ふたり食事療法でがんばったという。でも、ここにきて完全に食べられなくなり、病院からこのホスピスを紹介された。

新薬の治験の話もあったそうだが、モルモットになるのはいやだと断った。ただひとつ後悔があるとすれば、食事療法専門家から主治医に抗がん剤を半分処方してもらいなさいと言われたが、効果が保証できないと断られたことだという。治療することを拒むと病院から撤退しなくてはならない。しかし、すべて運命と受け入れ、よく耐えてくれていると奥さんは、ご主人であるOさんをほめたたえていた。

友人といっても環境グループの一員であっただけの縁で、ご本人のこともご家族のことなどなにも知らなかった。意外だったのは、鹿児島大学農学部の出身だったこと。魚の話しかしなかったので、水産の専門家と思っていた。息子さんが北海道紋別で羊を飼っていることなどは初耳だった。羊をおいて出かけることができずに13年間家に帰っていないことも。

「さよなら」といって手を握ったら、目を大きく見開いて、力強く握り返してくれた。それから、私は御殿場高原ビールを一杯飲み、友人はスパゲティを食べた。なんで、御殿場にいるのかなと思いながら。Oさんの訃報を聞いたのは、それから2時間後だった。人生はじめて足を運んだ御殿場のホスピスで人を看取ることになるとは。Oさんのご冥福を祈りたい。