生き抜く

人生を生き抜くには、お手本がいる。そんな話を友人たちとした。それは、女の生きかたから政治家のあり方までに及んだが、あらゆる価値観がひっくり返ったのは、戦後だということは間違いない。明治生まれの母親が、自由奔放に生きる昭和の娘をはらはら見ながら、しかし否定できない。むしろ羨望もある。しかしだ。奔放の娘も生きてみれば、明治の母の尻尾を切ることができす、むしろ安寧の懐を心地よく思うだ。この辰巳浜子さんの伝記を読むと、戦前、戦後を生き抜いた良質の母親の原型を見る思いがする。息子を兵役にとられることもなく、娘を身売りすることもない平和な時代の母は、どう母として生きていけばいいのか、身の処し方がわからなかった時に震災は起こった。なにがなんでも、生き抜かなくてはならない。生きるとは平時の話で、今は生き抜くというほうが、ぴったりくる。ことに被災地で最愛の夫を亡くし、子どもを抱える母たちの心情を思う。代々受け継がれてきた危機を切り抜ける愛というスイッチが入り、大いに知恵を働かせてたくましく生き抜いて欲しい。