在宅医療のあり方をめぐって

newmoonakiko2006-05-13

第10回小田原経腸栄養セミナーに行ってきた。会場で初めて知ったのだが、この会の代表世話人は、夫の主治医だった西湘病院の南康平先生。先生は、優れた内視鏡の専門医師として有名な方だ。緊急手術で命拾いした夫だったが、その後は仕事に復帰し、充実した晩年を迎えられたのも、医学のお陰だと思う。
しかし、ゆっくりとしたテンポで急性すい炎は慢性すい炎に移行し、糖尿病、肺炎、肝硬変と進んだ。一番の危機は、糖尿病による足の壊疽が始まり、「切断しかないか」という先生の言葉に私は慄然とした。今思えば、足の1本ぐらい・・なのだが。「いのちをとられるより、いいじゃないの」と言った覚えはある。夫の方は無表情だった。しかし、幸運にも1週間の入院でしかも2本足で帰ることができた。夫の南先生への信頼はますます強まった。半年の間に夫の身を襲った病魔を最短時間でたたく、それは見事な医療だったと思う。
 が、先生はだんだんと病室を訪れなくなった。夫は敏感に何かを感じ取り「先生は何を考えているのだろう」と呟くことが多くなった。「治す方法がないなら、病院にいてもムダ。家に帰るぞ」と、実際さっさと帰ってきた。しかし、食べることが難しくなり、栄養補給という名目の何度目かの入院をした後、ついに覚悟の退院になった。「1週間だよ」と引導を渡された私は、心おきなくその時間を過ごせるようになんと喪服まで用意して、夫を家に迎えた。この間、長いお付き合いの地域のお医者さん、医療介護の専門家の看護士さんが、我が家を毎日訪問してくださった。この方々の配慮ある看護が夫の心の不安と身体的苦痛を取り除き、また、これから夫の身に起こることを恐れる私たち家族をどれほど支えてくれたことか。あれが、在宅医療ネットワークシステムなのだなと思う。
 今日の講演者は、金沢市の開業医・小川滋彦先生。医者が病人の栄養に関心がないことに疑問をもち、口から食べられない患者ならPGE(経皮内視鏡的胃ろう造設術-皮膚から胃に穴を開けて直接食物を流し込む方法)を施して栄養管理をすれば、在宅医療の質をあげられると主張。PGEには、まだまだクリアしなくてはならない問題はあるようだが、病院医療と在宅医療をバリアフリー化して地域に根ざした医療を目指すワーキンググループ「金沢・在宅NST(栄養サポートチーム)研究会」には注目したい。「在宅医療は終末医療ではない」という小川先生だが、私の体験から言えば、在宅医療に患者はいない。一人のかけがえのない人間がいるばかりなのだけれど。「家で死ぬことがそんなにえらいか」とも言われていたが、「えらくはないが、家で死ぬことが自然だ」と私は思う。しかも、小川先生のような、元気のよい地域の医者がいたら、安心して家で死ねるではないか。小川先生、医学の敗北を意味するという意味で終末医療がお嫌なら、終末医療を転生医療と言ったらどうか。医者があの世を信じるかが、問題だが。
写真・こういうセミナーのスポンサーは製薬会社・今日は大塚製薬。発表の中で、食品栄養と薬剤栄養の価格差を発表した医者がいた。