わけありリンゴ

青森県板柳町の福士忍顕さんに会った。背広にネクタイ姿は、物腰の柔らかい企業の総務部長の趣。農家の人とは思えない。この福士さん、読売新聞の一面を飾った。「リンゴ丸かじり条例」のある板柳町をひっぱる有機農家のリーダーなのだ。青森は、昨年雹害にあって、傷だらけのリンゴになってしまった。しかし、これを逆手にとった流通の知恵者が、わけありリンゴとしてネット販売したら、これが大ブレーク。なにせ、見た目が少し悪いだけで味は違わないのに値段は最大68%引きなのだ。これにヒントを得たのか、長野県では形にこだわらない「ふぞろいの林檎たち」という商標登録を取った業者もいるほどだ。

このわけありリンゴ、まず、価格に飛びつき、味に納得して、リーピーターも多いという。ただし、これをできるのは、味に自信のある農家だけで、評判を落とせば、2度と買ってもらえないというリスクもある。福士さんのわけありリンゴは、当然ながら、たくさん売れた。ただし、形のよい通常のリンゴの販売実数はかなり落ち込み、福士さんの倉庫にはまだ800ケースも在庫があるという。

農業共済新聞の記者によると、「台風による被害については補償金がでるが、雹についての保険はない」という。福士さんに聞いたら、「今年から、雹にも対応する掛け捨ての保険ができたけれども、掛け金が高くて手が出ない。」と言うことだった。台風がくるという前提で、2割がた多めの生産計画をたてるのが、リンゴ農家の常識なのだとも。

見た目が悪いといって半値にするのではなく、せめて2割程度の割引ならば、生産者は来年もリンゴを収穫しようと思うのではないか?青森県では、自然災害リンゴの廃棄処分を決めたという。もったいないが、いかしかたないか?青森に手入れのされない放作リンゴ園が増えなければよいが。