今度こそTPPに反対します

菅総理がTPP(環太平洋経済連携協議)への協議を開始すると突然発表した。国内的には「競争力ある農業」めざして「農業構造改革推進本部」を設置し2011年6月をめどに基本方針を策定するという。

政府は、一方で「食と農林漁業再生推進本部」を開いた。こちらは、高いレベルの経済連携の推進と我が国の食料自給率の向上や国内農業・農村の振興とを両立させ、持続可能な力強い農業を育てるための対策を講じるため内閣に設置したとある。

その会議で菅総理は「食と農林漁業の再生推進本部は、まさに農林漁業の再生と経済連携を進めるというこの二つを両立させるという11月9日の包括的経済連携に関する基本方針の決定に沿って進めるための本部です。この本部は全閣僚がメンバーですので、実質的な決定を行うことになります。そして、もう一つ、「食と農林漁業の再生実現会議」というものを設けることを決定しました。この会議は、関係閣僚に加えて、専門的な知識、経験を持たれた民間の方に参加をしていただき、いろいろなアイデアを出していただくという形になります。私もできるだけ、全国の現場を歩きながらこれからの農業の在り方について、しっかりと私自身も一つのイメージをきちっとつくり出していきたいと思っています。 付加価値も含めた形で農林漁業の再生が図る方向性があるのではないかというこだわりをもって、食と農林漁業の再生という名称としました。今度こそ、日本の農業が世界に誇れる、また、力をもった農業として再生するようにしたいと思います」と述べている。構造改革推進本部と再生推進本部と実現会議というのがあるらしい。

さて、「今度こそ」という言い方はたぶん1980年代の貿易自由化を意味しているのか不明だが、食の安全保障という国の根底を議論するというには、頼りのない挨拶であったと思う。農水林業市場原理主義グローバリズムの枠組みではくくれない生命産業であることを認めるかどうかで結論は大きく違う。地域の自然や暮らしに切り離せないものを市場にさらすことがけしって良い結果を生まないことはここ20年で輸入食品の危険を体験した国民は知っている。農作物を輸入することは相手国を豊かにすると聞かされていたが、一部の穀物メジャーに利益をもたらすだけで、充分に自給できる他国の農民の土地を収奪するだけで、農民との連携を持つことはなく、お互いいいことはないのだ。安い価格の食糧が入ってきても、その価格が基準となり、人間の食べていける最低限の賃金は安く見積もられる。国内の農産物は低価格競争に巻き込まれて、再生産可能な利益を生み出すことができない。これは1次産業に限らず、食にかかわる産業すべてにわたる。この分野は、ボランティア精神でまわっていると思って間違いない。

仕分け人某議員の言い方を真似れば、「日本の農業が世界に誇れる、また力をもった農業」でなくてはなぜいけないのか?(そのような現実離れした話をよくできるなぁとも思うが。)むしろ、「日本国民を満足に食わせる農業」「健康に貢献する作物の供給源」として再評価することが重要ではないか。TPPに参加し農産物の関税をすべて撤廃した場合、農林水産省によれば、国内農産生産額で4兆円失われ、一方経済産業省の試算では輸出で8兆円増加するという。差し引き4兆円の利益を農水林業の再生に投資できるか、その覚悟があるかだ。

農林水産業の再生とは、第1次産業だけの問題と考えるふしがあるが、地域の再生・自然の再生といいかえれば理解されやすい。専業農家だけでなく兼業農家も、自給農家もはたまた週末農家も視野に入れて、農を中心にした地域コミュニティの再生に力を入れることが、農業の危機に対する今できる最善の方法なのではないかと思う。この共同の関係は小さいものから、地域と地域まで多様であっていい。TPPで切り捨てられるには、農業の大部分を占める中小規模の農家なのだ。彼らと共に地域自給を実現したいし、できるところから始めればいい。

ところで、農業再生を国民的コンセンサスにする一番ふさわしい役目を負うのがJAだと思うが、残念ながらいくらTPP反対とこぶしをあげても、既得権を守るというようにしか見えてこない。JAは100兆円の資産を持ち20数万人の職員がいるというがぜひ本来の農業者と市民をつなぐ役目を果たして欲しいものだ。同じように大きくなりすぎた生活協同組合が、消費者側につき過ぎたばかりに農家を疲弊させている現実を変えていかなくてはならない。

将来世界は、工業も農業も技術革新によりどの国に生まれても食べられて学べて暮らせることができるようになる。戦争さえ起こさなければの話だが。まだ経済力のある時期に食の自立は確保しておくことが、長い目で見れば日本の利益を守り、あたり前の国家となるのだ。その時国家という概念よりも地域となるのかもしれない。今度が方向転換する最後のチャンス。「今度こそ」だ。農をとらえるには世界観の違いが根底にあるが、たとえ違っても私たちは共にあるものを分かち合って食べ続けなくてはならない。

とか、力入れすぎ?菅首相山形県農業生産法人を視察したらしい。自給率の向上、担い手育成ここだけ集中すれば力のある農業に転換できるのに。